国立病院機構 福山医療センター 岩垣博巳 院長に講演をお願いしました。
『侵襲学からみる心身相関―癌悪液質と敗血症の病態の解析』とのタイトルで、看護2年生とスタッフに向けてお話しいただきました。炎症性サイトカインと精神的な変化、癌悪液質の全身状態への影響を科学的なデータを基に講演されました。
今年は生化学会と分子生物学会が合同で行われる年で、ConBio2017として、神戸で開催されました。研究室からは、芳賀早苗先生と浅野真未先生が発表しました(12月13日と14日)。また、検査の山口先生・松尾先生との共同研究の発表もありました(12月15日)。演題は以下の通りです。(来年は、別々の開催で、9月と12月のようです。)
肝細胞におけるレドックス依存性ネクロプトーシスの動態解析
芳賀 早苗、菅野 憲、小澤 岳昌、森田 直樹、浅野 真未、伊 敏、尾崎 倫孝
ビルベリー抽出物の糖尿病性網膜症発症・進行予防効果に関する基礎的研究
浅野 真未、芳賀 早苗、柴崎 彩、黒澤 和也、荘厳 哲哉、尾崎 倫孝
カスパーゼ3プローブ発現細胞を用いたクラミジア感染宿主細胞内のアポトーシス制御機構の探索
松尾 淳司、芳賀 早苗、大久保 寅彦、中村 眞二、小澤 岳昌、尾崎 倫孝、山口 博之
“photo-activatable probe for Akt activation”
光照射により細胞の生存のキーとなる分子Aktを非侵襲的・継続的に活性化するツールに関する研究成果を報告しました(Oncology Research誌)。東大・小澤研究室との共同研究です。光感受性物質を応用して細胞内プローブAkt分子を活性化し、それが内因性Aktおよびその下流のシグナルを活性化することを示しました。さらに、それにより細胞が様々なストレスに対して耐性を示すことも証明しました。このプローブは、Aktが関係する様々な細胞現象を研究するための便利なツールになると考えられます。
Sanae Haga, Takeaki Ozawa, Naoki Morita, Mami Asano, Shigeki Jin, Yimin and Michitaka Ozaki, A photo-activatable Akt probe – A new tool to study Akt-dependent physio-pathology of cancer cells -. Oncology Research (in press) IF: 3.957
様々な肝傷害における、regulated necrosis (necroptosis)の関わりとそのメカニズムを解析し、論文報告しました。解析は、RIP1およびRIP3蛋白質の相互作用を可視化する光プローブをもちいて行いましたが、apoptosisに対する光プローブも併用することで、necroptosisとapoptosisの関係も明らかとしました。さらに、ligand刺激によるものだけでなく、レドックスにより制御されるnecroptosisの機序に関しても報告しました。
Sanae Haga, Akira Kanno, Takeaki Ozawa, Naoki Morita, Mami Asano and Michitaka Ozaki. Detection of necroptosis in ligand-mediated and hypoxia-induced injury of hepatocytes using a novel optic probe detecting receptor-interacting protein (RIP)1/RIP3 binding. Oncology Research (in press) IF: 3.957
学部4年生の八巻ひかりさんが、卒業研究として「ビルベリーの肝細胞脂肪化・障害抑制効果」に関して研究されました。その研究に対して優秀賞が送られました(2017. 1. 30)。
保健科学研究院・広報誌「プラテュス」にて、生体応答制御医学分野の紹介をしています。よろしければご覧ください。
寄附分野「生体応答制御医学分野」の開講に向けて
~ストレス社会において、しなやかにそして力強く生きるために~
寄附分野「生体応答制御医学分野」は、細胞・臓器・器官・生体へのストレスおよびストレスに対する応答・適応メカニズムを科学的・医学的に究明し、ストレスを積極的に制御するための研究を行うことを目的として、平成28年9月に開講しました。御寄附により維持・運営される講座のため、期限付きの開講となります。医療・保健医療の現場においては、精神的・肉体的に様々なストレスへの対応が迫られており、その解決のための糸口となる研究も盛んに行われるようになってきています。こういった状況の中で、私達は、現代のストレス社会において「しなやかにかつ力強く生きるためのライフスタイル」を提案し、新たな保健医療の(概念の)創造を試みたいと考えています。
基盤的な研究としては、様々な生物学的ストレス・環境によるストレスを想定して細胞・小動物レベルでの研究を進め、生物学・生化学・分子生物学的手法を中心に解析します。細胞における「個々のストレスに対する特異的な応答とその機構」を研究すると同時に、様々なストレスに対して共通する応答形式を研究することで、「ストレスに対する普遍的な応答機構」を明らかにしたいと考えています。これまで、健康イノベーションセンター・生体分子・機能イメージング部門においては、細胞あるいは生体における分子・細胞・臓器の様々な活動を時空間的に解析し、理解を試みてきました。これまでの成果を基に、マウス等小動物実験を行い生物学的・医学的なストレス応答を“systems biology”の立場から分子生物学的に解釈・融合し、新たなストレス応答制御の方法を探究します。慢性ストレスあるいは急性ストレスを個別に検討することは重要ですが、現代社会において想定される混合ストレス(特に、慢性ストレス下にある状態での急性ストレスの負荷)に対する応答の解析は特に重要と考えていますが、細胞・臓器・器官・生体が慢性的な非生理的ストレス状態に陥った際、さらに加えられる急性ストレスの影響を解析し、複合的なストレスへの対応法を研究したいと考えています。
また、本寄附分野では、ヒトを対象としたストレス研究を主要目的のひとつとして掲げました。これまで細胞あるいは動物実験を中心に行ってきていましたが、臨床への研究成果の還元は医療系の研究者として大変重要なことです。今回、保健科学研究院の他の専門的研究者らとともに、日常的な精神的・肉体的ストレス(食事、運動、睡眠、生活習慣など)、それらに由来する疾患、医療行為に関連するストレス、周囲環境の変化によるストレスなどへの生体応答・適応を科学的・客観的に解析すると同時に、特に五感刺激(嗅覚、視覚、知覚、聴覚など)が及ぼす生体ストレスへの影響・緩和効果を理論的に検証したいと考えています。
現代社会における様々なストレスに対して柔軟に対応し力強く生きるために、ストレスに対してより理論的・科学的にアプローチし新たな観点からの解決法を見出せれば、それを多くの方々に還元することが可能かもしれません。本寄附分野が、ストレスに対する生体応答の基礎的・臨床的な検討を行いながら、様々な分野の研究者の方々と共同で研究を進めることが出来れば、保健科学研究院のみならず、北海道大学、最終的には国民の健康と福祉に貢献出来るものと考えています。