脳ストレスの解析(脳磁図をもちいた臨床研究):保健科学研究院 横澤研究室との共同研究

五感を刺激する(とくに、香りを用いて嗅覚を刺激する)ことにより、ストレスおよびストレス関連状態をコントロールする!

ストレスとは?

 日常の用語でのストレスは、「イライラする感じ」「不安」といったネガティブな意味合いで用いられます 。医療においてこのような意味でのストレスの緩和を目指すことは重要です。ストレス反応は、外界(または自己の精神活動)からの刺激入力が脳神経系へ伝達されることを起点に、心拍・血圧・内分泌系の反応やそれに伴う精神状態の変調が相互に影響しあって生じるとされています。
 本研究は、ストレスと関係の深い脳神経系の活動として、「覚醒水準の変調」をターゲットにします。覚醒水準とは、心身の警戒状態や外部の刺激に対する応答性を指す言葉で、眠っている状態(低覚醒)から、興奮状態(高覚醒)までのどの状態にあるかを示すものです。
 覚醒水準は高ければ高いほど良いというものではなく、ある状況に対応するために、個々に最適な覚醒水準があると考えられています。そのため、最適な覚醒水準にないときに、状況に対応しなければならないことは、個体にとってのストレスであると考えることができます。
 私達は、五感の中でも特に「香りによる嗅覚」に興味をもってストレス軽減等の研究をすすめようとしています。現在、以下のような研究をすすめることで、ストレスあるいはストレスに関連する状態をコントロールできないかどうかを探究していきたいと考えています。

1 「音」を用いた研究により、ストレスを客観的に評価するための手法を確立する!(脳磁図をもちいた理論的解析)

私達は、①覚醒水準が変わると考えられる「音」を用いて脳磁図(Magentoencephalography, 以下MEG)の計測を行い、②Posner課題を用いて覚醒水準の変化が確認できることを検証しています。
②が達成できれば、さらに③【香り】による覚醒水準の変化を計測できるようになり、このことは香りによるストレス緩和につながるものと考えられます。

2 「香り(嗅覚刺激)」によりストレスをコントロールする研究をすすめる!

 「香り」を用いることの特有の問題点としては、

  • 聴覚刺激に比べて馴化が早い可能性(覚醒水準の変化時間が短い?)
  • 香りの(定量的な)提示の難しさ(香り間の統制はどのように行うべきか?)
  • 嗅覚の個人差測定の難しさ(視覚・聴覚に比べて検査方法が確立していないと思われる)

 などがあり得ますが、ある一つの香りによって、定常状態からどう覚醒が変化するかについて検討することができると思われます。
 先に示した通り、すべての人に「最適な覚醒水準」をもたらす特定の香りというのは困難かもしれませんが、覚醒水準を上昇/低下させる香りは可能性があります。香りによって、標準状態からどの程度覚醒水準が上がったか/下がったかを測定することで、個人のある時点の覚醒水準を調整するのに役立つ香りが同定でき、そのことは覚醒水準の最適化に貢献するものと考えられます。覚醒水準を最適な状態に近づけることは、ある状況でのパフォーマンスを最適化すること(仕事への集中力アップなど)に繋がり、ストレスの緩和(リラクゼーション、安眠など)にも繋がると考えられます。

 上記により、香り刺激による覚醒水準の変化の評価法が確立した段階で、さまざまな香料を候補として、覚醒水準の変化を解析し、様々な理論的根拠を基に、ヒトにおいてパフォーマンスを最適化することに繋がる(仕事への集中力アップなど)あるいはストレスの緩和(リラクゼーション、安眠など)につながると考えられる香料をスクリーニングしていく予定です。