肝臓の脂肪化と肝障害 – p62/SQSTM1を中心とした肝細胞保護メカニズムとその破綻 –

a) 脂肪肝、NASH(非アルコール性脂肪性肝炎)

 脂肪肝は糖尿病、メタボリックシンドロームの病態の一つの病態ですが、近年NASH(non-alcoholic steato-hepatitis)などの病態が注目されています。とくに、外科領域では手術後肝不全の回避が重要な課題であるため、私たちは、Leptin受容体欠損db/dbマウスをもちいて、脂肪肝マウスにおける肝切除後の肝再生不全メカニズムを検討しました。このマウスにおいて2/3肝切除をおこなったところ、その肝再生はその初期段階で有意に抑制されましたが、肝細胞増殖は抑制されませんでした。ところが、血清AST/ALTレベルは初期に高値を示し、肝切除直後の強い肝傷害を認めました。脂肪肝切除直後の傷害の原因を探るため、肝の酸化ストレスとCaspase-3活性を生体イメージング法により経時的・非侵襲的に観察したところ、脂肪肝では肝切除直後の酸化的ストレスとそれに引き続くCaspase-3活性の増加が観察され、さらにその後アポトーシスも強く誘導されました。
 脂肪肝組織ではFas/CD95およびFas-ligand(FasL)発現の増強、およびAktのリン酸化低下、抗酸化分子・抗アポトーシス関連分子、p62/SQSTM1発現低下等が認められました。これらが起因となって、脂肪肝切除後再生時における酸化ストレスとそれに引き続く細胞傷害は引き起こされ、肝再生不全の主因となったと考えられました。
 興味深いことに、p62/SQSTM1は、肝細胞の脂肪化の有無にかかわらず、FasL・Fas/CD95および抗酸化分子(catalase, Ref-1, Mn-SOD)の発現を積極的に制御していることが確認され、後者はKeap-1/Nrf-2を経由して制御されていました。
 これらの結果から、脂肪肝では細胞増殖能は保たれるものの、脂肪化により発現低下したp62/SQSTM1が、肝切除直後に酸化的ストレスおよび肝細胞傷害を誘導し、結果的に脂肪肝再生不全を引き起こしていることが考えられました。

b) 核内受容体FXRと肝脂肪化・傷害抑制

 核内受容体のひとつであるFXR(Farnesoid X receptor)は、肝臓あるいは消化管組織に特異的に発現しています。FXRは、胆汁酸刺激により肝細胞の糖・脂肪代謝に関わっていることが知られており、創薬・健康食品開発などの標的分子ともなっています。近年、FXRがp62/SQSTM1をターゲットとしていることが報告されましたが、私達はFXRを中心とした酸化ストレス抑制、細胞傷害抑制、あるいは脂肪化抑制の分子機構を研究しています。ひとつはp62/SQSTM1を経由した抗酸化・抗アポトーシス(生存促進)効果であり、もうひとつはSHP(small heterodimer partner)を経由した抗脂肪化効果です。FXRは、肝細胞増殖効果を有しているとの報告もありますが、私達の研究では確認できていません。いずれにしても、FXRは様々な生物学的効果を合目的的に発揮していると考えられ、創薬・健康食品の開発の面から重要であると考えられます(BMC Gastroenterology, in press)。