肝臓が物理的・化学的あるいは代謝的に軽度ではあっても急性あるいは慢性的なストレスを受けた際に、(外部からのストレスの程度と種類、持続期間により)細胞のDNA損傷を起点として、細胞内、細胞間、臓器間でどのような変化が生じ、修復・適応するかを研究しています。具体的には、以下のような疑問を持っています。
- ストレスにより直接誘導される一次肝傷害(肝細胞死、DNA損傷を示すものとして、PARP活性に注目する)から二次肝傷害(一次肝傷害から二次的に誘導される多彩な制御細胞死)がどの細胞においてどのようなタイミングで発生するか?
- 様々なタイミングで発生した異なる細胞死が、相互にどのように展開して非感染性炎症を誘導し臓器の修復起点となるか?
- 並行して進行する適応(再生)プロセスとどのような関係性にあるのか?
- さらに、ストレスによる傷害に対する修復(炎症)・適応(再生)は何をもって完了するのか?
種々のストレスにより細胞が傷害されてから修復としての再生のプロセスにおいて、肝細胞表面受容体の変化、肝細胞増殖・成長のシグナル分子の抑制(反応性の低下)、制御細胞死、炎症との関係を中心に検討しています。本研究により得られる成果は、急性・慢性肝傷害により引き起こされる様々な病態を理解するために応用可能なものと考えています。肝虚血・再灌流傷害、脂肪肝からNASHへの進展、種々の原因による慢性肝傷害・肝炎の傷害抑制、進展予防に向けた創薬ターゲット分子の探索につながるかもしれません。
本研究は、様々な肝に対するストレスの結果生じる「傷害」をDNA損傷として一般化し、DNA損傷を起点として起こる肝臓の変化(「適応」としての再生・再生終息から、「修復」としての炎症・炎症終息まで)を研究するという“ごく一般的な細胞イベント”を有機的に理解し病態を解明しようとするものです。特に肝臓において、①様々なストレスに対して肝細胞・Kupffer細胞がどのように適応し、②周囲細胞・臓器(脾臓)と強調して修復し、③これらストレス応答が継続あるいは終息するかを研究しています。“DNA傷害により生じるPARP活性化”を軸として、“その発生・進行が巧みに制御されている多彩な細胞死の相互関係”および“細胞死と炎症惹起・進行との関係”、“再生・炎症終息の起点”が研究の主要な課題です。