「ピュラテュス」第15号 巻頭言として

2015年10月20日 尾崎研究室/ 研究室イベント/

巻頭言 ”I Have a Dream.”
1963年,Martin Luther King, Jr .は,“I Have a Dream”と題した演説を行いました。心の 底から絞り出したような迫力と情熱を感じる演説でした。この講演はあまりにも有名で,今更ここにご紹介するまでもありません。彼はこの演説の中で,8回も“I Have a Dream.”という言葉を繰り返しています。“Dream”をもつことは誰の人生においても極めて大切で,それは生きていく上での確固たる”vision”を持つことにつながります。さらには,現時点での”vector(方向性と強さ・情熱)”を決めることにもなり,日々の具体的な”effort/hard work”の原動力になることでしょう。
私は大学・大学院修了後,一般外科・胸部外科の研修を受け,その後移植外科の臨床に携わりました。移植医療が創生期であった当時,移植外科医となることを“夢”見ていたはずです。“臨床の視点からの系統的基礎研究”に興味を抱くようになったのは,30代後半の頃だったでしょうか。臨床において体験する様々な病態・現象を理解するため,レベルの高い低いではなく質の良い研究を系統的に行い基盤となる生理・病態学的事実をしっかりと積み上げていくことこそが重要ではないか,考えるようになりました。診断(判断)・治療(対応)に対して基盤・土台となる研究は,当時案外なされていないと感じたためです。限られた時間の中で成果が求められる研究では,ある特定の目標に向けた直線的で無駄のない研究が行われることが多いのですが(これも勿論大切ですが),他方その研究成果の裏付け・土台となる基盤的知識が十分に得られていないのも事実です。
そういった思い(夢)を抱いて米国に留学し別の視点から研究を始めたが,結果的に私の第2の人生の始まりとなりました。
さて,北大では長らく医学研究科に所属していましたが,ご縁があり保健科学という新しい領域にてお世話になることとなりました。ここでは,将来様々な医療系職種となる学生さんが学んでいますが,(医学科の学生を含めて)資格取得のために必要な勉強に追われることも少なくありません。他方,大学人として自由な発想と議論,深い洞察力,探究心を培うことが必要で,それらは大学における教育・研究の根幹でもあります。北大は実学を重視しますが,実学(保健医療の実践)の礎となる科学的基盤を創るためには何をどのようにすべきなのでしょうか。

いつの日か,様々な職種の医療人皆が科学に対する深い造詣と興味を持ち,病棟の何処かで,あるいは研究棟の一室で,肩肘を張ることなく同じ土俵の上で自然に医療・科学を議論している…。それを実現するためには,どのようなvisionをもち,どのような方向にvectorを向ければよいのでしょうか。
King牧師は,凶弾に倒れる前日の演説で“I’ve Been to the Mountaintop”という演説をしています。私もそうありたいと願っています。