~ストレス社会において、しなやかにそして力強く生きるために~
寄附分野「生体応答制御医学分野 Department of Biological Response and Regulation」は、細胞・臓器・器官・生体へのストレスおよびストレスに対する応答・適応メカニズムを科学的・医学的に究明し、ストレスを積極的に制御するための研究を行うことを目的として、平成28年9月に開講しました。御寄附により維持・運営される講座のため、期限付きの開講となります。
医療・保健医療の現場においては、精神的・肉体的に様々なストレスへの対応が迫られており、その解決のための糸口となる研究も盛んに行われるようになってきています。こういった状況の中で、私達は、現代のストレス社会において「しなやかにかつ力強く生きるためのライフスタイル」を提案し、新たな保健医療の(概念の)創造を試みたいと考えています。とはいえ、これまで私達が行ってきた研究の方向性が変わっていくという訳ではありません。むしろ、これまでの研究から得られた成果をさらに推し進め、より臨床に近いアウトプットを得ようという考えです。私達自身の分野のメンバーだけでは困難なことを、他の専門分野の先生方を系統的・有機的に研究を進めるためのプラットフォームとしての位置づけであり、志をともにするたくさんの研究者の方々と研究を進めたいと考えています。これに先んじて設けた本研究院・健康イノベーションセンター内の「生体分・機能イメージング部門」では、生体イメージング技術の開発と臨床に向けた応用を主体的に進めています。今回の寄附分野は、これらの研究手法および成果を組み込み、これらを基盤のひとつとして、より臨床的な側面からの研究を推し進めることを主眼としています。
基盤的なストレス研究としては、様々な生物学的ストレス・環境によるストレスを想定して細胞・小動物レベルでの研究を進め、生物学・生化学・分子生物学的手法を中心に解析します。細胞における「個々のストレスに対する特異的な応答とその機構」を研究すると同時に、様々なストレスに対して共通する応答形式を研究することで、「ストレスに対する普遍的な応答機構」を明らかにしたいと考えています。これまで、生体分子・機能イメージング部門においては、細胞あるいは生体における分子・細胞・臓器の様々な活動を時空間的に解析し、理解を試みてきました。これまでの成果を基に、マウス等小動物実験を行い生物学的・医学的なストレス応答を“Systems Biology”の観点から分子生物学的に解釈・融合し、新たなストレス応答制御の方法を探究します。慢性ストレスあるいは急性ストレスを個別に検討することは重要ですが、現代社会において想定される混合ストレス(特に、慢性ストレス下にある状態での急性ストレスの負荷)に対する応答の解析は特に重要と考えていますが、細胞・臓器・器官・生体が慢性的な非生理的ストレス状態に陥った際、さらに加えられる急性ストレスの影響を解析し、複合的なストレスへの対応法を研究したいと考えています。
また、本寄附分野では、ヒトを対象としたストレス研究を主要目的のひとつとして掲げました。これまで細胞あるいは動物実験を中心に行ってきていましたが、臨床への研究成果の還元は医療系の研究者として大変重要なことです。今回、保健科学研究院の他の専門的研究者らとともに、日常的な精神的・肉体的ストレス(食事、運動、睡眠、生活習慣など)、それらに由来する疾患、医療行為に関連するストレス、周囲環境の変化によるストレスなどへの生体応答・適応を科学的・客観的に解析すると同時に、特に五感刺激(嗅覚、視覚、知覚、聴覚など)が及ぼす生体ストレスへの影響・緩和効果を理論的に検証したいと考えています。
現代社会における様々なストレスに対して柔軟に対応し力強く生きるために、ストレスに対してより理論的・科学的にアプローチし新たな観点からの解決法を見出せれば、それを多くの方々に還元することが可能かもしれません。
本寄附分野が、ストレス・イメージングに対する生体応答の基礎的・臨床的な検討を行いながら、様々な分野の研究者の方々と共同で研究を進めることが出来れば、保健科学研究院のみならず、北海道大学、最終的には国民の健康と福祉に貢献出来るものと考えています。